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濃姫が「お!」となって部屋に踏み入れようとした足を引くと、その下に鉛玉やら鏃(やじり)やらが幾つも散らばっていた。
「その辺りのは、まだ整理も手入れもしておらぬ。踏み荒らすでないぞ!」
「…は、はあ…」
姫はそれらを踏まぬよう、足元に気を配りながら入室すると
「お伺い致したき儀があり、まかりこしました」【脫髮先兆】頭髮變幼變薄?留意四大脫髮成因!
信長の傍らに腰を据え、端然と三つ指をついた。
「そなたが参ったという事は、此度の蝮殿の話か?」
「御意にございます。──会見の話、何故にお断りになられませなんだ !?」
「断る理由がいったいどこにある?」
信長は鉄砲を磨きながら、しれっとした顔で言う。
「せっかくそなたの父上が儂に会いたいと言うてくれておるのじゃ。断る方が無礼であろう」
「今は左様な礼儀などどうでも良いのです!あなた様のお命に関わる事なのですよ !?」
「はてさて、儂の命とな?」
「おとぼけにならないで下さいまし!私でも父の考えをすぐに読めたのです、殿に読めない訳がございませぬ!」
姫の言葉に、信長は如何にも余裕有り気にふっとほくそ笑む。
「父上様は此度、殿を殺める気でおりまする。会見は、尾張を奪う為のただの口実。目的はあなた様のお命なのです!」
「──」
「父上様の事、私の存在など顧みず平気でこの城にも軍勢を差し向けましょう。そうなれば、もう……」
最悪の結末しか思い浮かばない頭を、二、三度強く横に振ると
「今からでも遅うはありませぬ!父上様にお断りの使者をお遣わし下さいませ。
いえ、何でしたら私が、父上様にお諦めいただくように文を書きまする!」
濃姫は自室に立ち戻ろうと、軽く腰を浮かせた。
「余計な真似を致すなっ!」
信長は叫ぶや否や、立ち上がろうとする濃姫の腕をグイと引いた。
「そなた。儂があの蝮の親父殿に易々と殺されると、そう思うておるのか !? 儂に勝機はないと !?」
「それは…」
「とうとう儂を信用出来ぬようになったか !?」
濃姫はとんでもないと、大仰にかぶりを振った。
「無論、殿の事は信じておりまする!されど、私は心配でならぬのです。
如何に殿が優れたお方であろうとも、力と戦の経験では我が父の方が上。
もしも殿が、蝮の毒にやられる事になったら…私は…」
ぐうっと熱い思いが込み上げて来て、姫の透明感に満ちた双眼が、うっすらと涙で滲んだ。
やおら濃姫は、信長の肩に顔を伏せるようにして、相手の身にすがり付いた。
「…父と夫の殺し合いなど、濃は見とうございませぬ。後生でございますから、殿、会見はお断り下さいませっ」
「それは、まことに儂を案じての言葉か?」
「当たり前でございます!夫の身を案ぜぬ妻が、いったいどこにおりましょう」
「儂が死ぬのは嫌か?」
「嫌です…!殿には生きていてほしゅうございます!」
「生きていて、どうしろと?」
「濃のお側に居て下さりませ!ずっとずっと、濃のお側に!」
「儂がそれほどまでに愛しいか?」
「…愛しゅうございます。……あなた様のようなお方に惚れてしまった自分自身を、恨めしく思う程に」
姫の放つ一言一言に、愛情に満ちた温もりがあった。
やがて信長は、その目元に優しさを湛えると、鉄砲を畳の上に置き
「愛(うい)やつよな……そなたは、本当に」
濃姫の細い肩を、そっと、包むように抱いた。
信長の身体から、汗と、渇いた土、そしていっぱいの太陽の香りが漂ってくる。
濃姫の大好きな香りだ。
この香りも、温もりも、決して失いたくない…。
姫は何とかして会見を思い留まってほしかったが、信長の心は変わらなかった。
「お濃──儂は蝮殿に会うぞ。そなたに何と言われようとも、この意は変わらぬ」
姫は思わず、希望を打ち砕かれたような表情で夫を見つめた。