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名前くらいならば縁組が決まった

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名前くらいならば縁組が決まった

名前くらいならば縁組が決まった時点で、政秀か誰かから聞いていそうなものだが

 

彼はまるで覚えていない様子である。

 

 

──

 

「何じゃ、何を黙っておる。そちは口が利けぬのか?口なしか?」

 

妙に粘っこい、嫌な言い方をする信長に腹が立ったのか

 

帰蝶にございます【脫髮先兆】頭髮變幼變薄?留意四大脫髮成因!

 

「は? 何じゃ聞こえぬぞ」

 

「帰蝶にございますっ!」

 

姫はこの尾張に来て、初めて大声を響かせた。

 

「帰蝶?」

 

はい」

 

「蝮の娘が帰蝶──。随分と贅沢な名を付けてもろうたものじゃな」

 

信長は辛辣に言うと

 

「そうよのう。蝮に。いや、美濃か ?

 

下顎を撫でながら、徐に視線を天に向け、何かを考え始めた。

 

「お美お濃……。おお!濃か、なかなか良いではないか!」

 

信長は大きな独り言を呟くと

 

「本日そなたに『濃(のう)』の名をくれてやる!」

 

?

「美濃から参った姫じゃ故、濃姫。どうじゃ?覚え易うて良いであろう」

 

濃姫」

 

突然のことに帰蝶の目が戸惑いがちに泳いだ。

 

そんな姫を尻目に、信長は腰に下げていた二つの瓢箪(ひょうたん)の内の一つを手に取ると

 

「固めの儀じゃ!」

 

と一言叫んで、瓢箪の中の酒をくびくびと口飲みした。

 

彼はその瓢箪を帰蝶に差し出すと

 

「そなたも飲め」

 

 

「固めの儀じゃ故、そなたも飲まねば意味がないであろう。飲め」

 

信長は有無を言わさぬ口調で飲酒を促した。

 

帰蝶の顔面には、はっきりとした拒否反応が浮かんでいる。

 

回し飲みなど生まれてから一度もしたことがない。

 

第一、人が口をつけた物を、それも獣のようなこの男が飲んだ酒を飲むなど、絶対に出来ないと帰蝶は思った。

 

誰かに信長を止めてもらいたかったが、こんな時に限って皆々口をつぐんでいる。

「どうした?何故受け取らぬ」

 

……

 

「おぉ、そうか──蝮の子はやはり蝮。

姫君は蝮の如く、この瓢箪を受け取る手を持ち合わせておらぬと見ゆる」

 

帰蝶は睨むように信長を見上げた。

 

「手足があるだけ蜥蜴(とかげ)の方がまだ優秀よのう」

 

信長が冗談めかして告げると、ふいに下段から「ククッ」と笑い声が漏れた。

 

その笑い声を聞いて

 

やはり蝮の娘じゃ

 

美濃の間者の分際で図々しい

 

さっきの嘲りの言葉を思い出し、帰蝶の身体中がカッと熱くなった。

 

 

「お固めの儀ならば、姫様にはこちらの御杯の方をお使いいただきまして

 

と、三保野が手元に置いてあった杯を帰蝶に手渡そうとした時

 

──!」

 

帰蝶の手が、隼(はやぶさ)のように信長から瓢箪を奪い取った。

 

そして先程までの躊躇いが嘘のように、平然とそれに口を付けたのである。

豪快に酒を呷る帰蝶を見て

 

「何と!」

 

「ひ、姫君様!」

 

政秀や三保野らは驚愕し

 

「はははは!面白い!さすがは儂の嫁になるおなごじゃ!」

 

信長は愉快そうに笑った。

 

 

瓢箪の飲み口から唇を離した帰蝶の双眼には、それは強い光が帯びていた。

 

もう怒りも恥ずかしさも躊躇いも、どこかへ飛んでいってしまった。

 

ただ、この男にだけは見下げられたくない。

 

決して負けたくない。

 

そんな思いが、帰蝶の胸の中いっぱいに広がっていた。

 

 

これが天下の風雲児・織田信長と、帰蝶改め濃姫との、長い長い戦の始まりとなったのである──

 

大騒ぎの祝宴の後。

 

濃姫(帰蝶)は速やかに奥御殿の居室に戻ると、薄物に着替え、御湯殿へと移動した。

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