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「お久しぶりっす!先輩……顔面ヤバいですよ…」
市村が言った。
「はは…ははは…」
これには苦笑いしかできない。
子供って素直だよな。
「山崎さんは…どうだ?」
斉藤が聞いた。
この声に遠くから土方が反応する。
土方も気になってしょうがないようだ。【脫髮先兆】頭髮變幼變薄?留意四大脫髮成因!
沖田、近藤は療養中なため、食事は別室で摂る。
山崎も同様だ。
「変化なしです…」
「そうか…」
「ま…まぁまぁ!悪くなってないんなら良しとしようじゃねぇか!」
永倉がバシバシと美海を叩いた。
美海は頷く。
「てか原田さん。どうしたんですか?」
原田は立ち上がったまま固まっている。
「き……」
「き?」
「き……」
「なんなんですか」
「きぼぢわるい…」
「「「えぇ!?」」」
原田は口を手で抑えている。
「まさかの原田さん!?ここで吐いちゃ駄目ですよ!皆もらいゲロします!」
その話を聞いて、既に隊士は顔を歪めている。
「早く!早く外に!」
美海が原田を押した。
原田は何度も頷いていった。
「ふぅ…」
美海が一息つくと固まっている斉藤がいる。
「まさか…」
「うっ…!」
斉藤は口を手で抑えた。
「早く外へ~!」
斉藤も美海に押され、外に出た。
実は、船にほとんど乗ったことがない新撰組は大半の隊士が船酔いしてしまったのだ。
土方は昨日の夜に酔ったと言っていたが本当は酔っていない。
あの鬼が船酔いなどに屈するわけがないのだ。
だが沖田は本当に酔っている。
現在も部屋で食事を嫌がっているだろう。
「美海ぃ。どうにかならねぇのか、あれ」
永倉が二人が出ていったドアを指した。
「まぁ船酔いはどうしようもないですからねぇ…」
「自分は船酔いしてませんよ」
市村が自慢気に言った。
「………しかしあれですね」
美海はチラリと市村を見ると面倒くさかったためスルーした。
市村はしょんぼりと座っている。
「これはあんまり良くないですよね」
「あぁ」
永倉は頷いた。
どうにかしなきゃな。
そう思いながらやっと鯵をつついた。
バンッ
朝食を食べ始めてまだ少ししか経ってないのだが、扉が勢いよく開いた。
「美海くん!」
「どうしたんですか!?」
立っていたのは松本だった。
「急いで来てくれ!」
美海は直ぐに山崎のことを頭に浮かべ、大きく頷いた。
「君らも来るか?」
松本は永倉、市村に聞く。
二人もわけがわからないまま頷いた。
「待て。俺も行く」
後ろを振り向くと土方がいた。
「おいおい。どこ行くんだ?」
廊下を小走りしている途中、甲板で嘔吐してきたと思われる原田と斉藤に会った。
「今から山崎さんの部屋へ向かうんです」
斉藤はチラリと松本を見た。
「俺も行く」
その切迫詰まった様子に不安感を覚えたのだろうか。斉藤と原田も同行することになった。
再び小走りをするのだが、いつの間に全力で走っていた。
山崎の部屋の前で松本は立ち止まった。
「ぶっ!」
思わず美海は松本の背中に顔面をぶつけた。
鼻を擦る。
「いいかい皆。ここに入る前によく聞いてくれ」
皆ゴクリと唾を呑んだ。
嫌な予感がする。
「山崎くんは、今、極めて危険な状態にいる」
「そんな!ついさっきまで普通じゃなかったですか!それに回復してきて!」
美海が声を荒げる。
「鉄砲傷がどうやら化膿してきたらしい。熱が酷いんだ…」
「山崎さん…嘘だろ!?」
「危険な状態ってことはまだ治る見込みはあるのか?」
辺りがざわめく中、土方が冷静に聞いた。
「それは奇跡でも起こらないかぎり、無いに等しい…」
松本は静かに首を振った。
「そんな…」
やりきれない気持ちは松本も同じだろう。
自分の弟子でもあった。
「今日を…越えられるかすら……わからない…」
松本が呟いた。
彼らは沈黙してしまった。
「……ここで俺らが立ち止まっている間にも山崎くんの症状は悪化するんだろ?」
土方が聞いた。
松本は悔しそうに頷く。
美海は目を潤ませていた。
「なら、ここでウダウダと無駄に時間を削るより、山崎くんと会える時間を大切にしたほうがいいんじゃないか?」
「……そうだな」
土方のまっすぐな眼に皆頷いた。
「開けるぞ」
どこからかゴクリと唾を呑む音が聞こえた。
そこへ、軍議に参加していた主人が、興奮を隠しきれぬ様子で戻ってきた。
急ぎ、この道を進み、怪しげな者どもがいれば躊躇なく討て、と。
何の説明もなく、だ。
もっとも、見当はつく。
この道は国司の親族、隆家様が住む馬木に続いている。
国司の家族、郎党が落ち延びようとしているか、こたびのことを早々に察知した隆家様が、物見を出してきているかだ。
主人の様子からすれば前者だろう。
とは言え、あれほどの軍勢に囲まれながら、落ち延びることなど出来るはずがない。
ならば取り囲まれる前に邸の外に出ていたのか――いや、理由など、どうでもよい。
首尾よく討てば桁違いの報奨と出世が手に入る。
皆がいきり立った。
だが、追手は我々だけではなかった。【脫髮先兆】頭髮變幼變薄?留意四大脫髮成因!
なにより、進めば進むほど奇妙なことが待ち受けていた。
穴が開き、落ちかけていた蔓橋。
崖崩れで塞がれた道。
下敷きになった馬や兵。
天を照らすほどの閃光と地鳴りを思わす振動。
無人の館。
いまだくすぶり続ける、谷をまたいだ巨大な砦とおぼしき残骸。
焼け焦げた岸壁。
そして黒こげになったいくつもの骸。
矛を手に累々と転がる屍。
あの砦らしき場所には、一体どれほどの兵が詰めていたことだろう。
それを殲滅し、進んでいった者がいるのだ。
――そして、この降り注ぐ矢だ。追っている相手が山賊などであるはずがない。
ましてや国司の一族郎党などであるはずがない。
なにより、月が一夜のうちに消え失せてしまうなど聞いたことがない。
我々の所業は、神の怒りをかっているのではないか?
――いや、そもそも、我々が追っているのは神そのものか、神に守られた者たちではないのか。
*眠りをさまたげられた猿たちの奇声が響きわたる。
義久と姫は凄惨な光景が繰り広げられているであろう方向に目をやっていた。
「これで、しばらくは刻がかせげよう」
イダテンの言葉に、姫は胸の前で袖を重ね、義久は、あきれたようにため息をついた。
「……おまえといると退屈せぬな」
義久の言葉にはかまわず、折りたたんだ油紙を懐から取り出す。
近くの岩に腰を下ろすと、姫も、かたわらに腰を下ろした。
義久は、対面の木陰下の岩に銀装の大太刀を立て掛け、そこに座った。
義久の顔色もイダテン同様に悪い。
油紙を開き、呪符を取り出す。
符だの中ほどは空白になっている。
義久に向け、呪符を五枚ほど差し出した。
「利き腕がしびれておる。この符だに、おれの血を使って文字を書いてくれ」
「なにをしようというのだ?」
姫は黙ってイダテンと義久の話を聞いている。
「こいつは『身代わり符だ』だ。特別な力が封じ込めてある」
義久が、呆けた顔で「なんだそれは」と口にする。
「この符だに血で文字を書くのだ。人の声を聞くと、この符だは血文字の主の姿をとり、ただ一度、その者そっくりの声で、書いたとおりのことを答える……これを崖の上から風に乗せて流せば、谷底や、対岸の山中にたどり着くだろう……うまく使えば、追手を分散できる」
姫が驚いたように呪符に目をやった。
「おお、聞いたことがある。おまえの母者は巫女としての力に加え、都から来た陰陽師を赤子扱いするほど呪法に優れていたと」イダテンは、それには答えず、急かすように、衣が破れ血が流れている右肩を義久に向かって突き出し、
「紙にはさみ、懐に入れているうちは反応しない」
と、つけ加えた。
義久は腰を上げようともせず唇を曲げた。
「わしは字がへたでな……それに筆を持っておらんぞ」
姫が立ち上がり微笑んだ。
その衣から、ふんわりと香しい匂いが漂ってくる。
一瞬とはいえ、ささくれ立っていた気持ちが癒された。
「なんと書けばよいのです?」
義久が、あわてた様子を見せたが、姫は気にする様子もなく、イダテンの熱を帯びた額に白く細い指をあて、流れる血を、そっと掬いとった。
冷たい指が心地よかった。
になって参ったそうじゃのう?」
蘭丸は照れからか、一瞬 答えあぐねたが
「…まことに恐れ多きことながら……、親しゅうさせていただいておりまする」
嘘を言っても仕方がないと思い、ゆっくりと頷いた。
「手込めになどしておらぬであろうのう?」
「と…飛んでもないことにございますッ! 我らは至って健全な交流を…」
「 “ 我ら ” じゃと?」【脫髮先兆】頭髮變幼變薄?留意四大脫髮成因!
「申し訳ございませぬ。姫様と某が、でございます」
信長はふんっと鼻を鳴らす。
「まぁい。──そちと胡蝶は、にまことのになるのだからな」
信長は妥協めいた口調で言うと
「此度の毛利攻め、秀吉よりの懇願もあり、近く儂も出陣致すことと相なった。そちも聞いておるな?」
「勿論にございます。、仕度に取りかかっておりまする」
「うむ。…その毛利攻めが片付き次第、そちと胡蝶の婚儀を、内々にすことと致した故、左様 いだ。
「姫様と某の、婚儀──!?」
「何じゃ、また不服を申す気か?」
「め、滅相もございませぬ! …あまりにも有り難く、勿体なく…」
蘭丸は動転してしまい、思うように喋れなかった。
嬉しいことではあるが、胡蝶との婚姻はもっと先の事になるだろうと思っていたからだ。
「あまりにも早過ぎる胡蝶の婚儀は本意ではないが、無事に日の本平定を成したは、すぐにへ向かう仕度に取りかかる。
それ故、何かと慌ただしゅうなる前に、そちと胡蝶の婚儀をり行い、出立の日までを安楽に過ごしたいのじゃ」
「──左様にございましたか」
「一度 海の彼方へ渡れば、そうとは戻って来られぬ。信忠がおるとはいえ、可愛い胡蝶を、
何年もの間 独り身にさせておくのは、あまりにか早いが、そちに胡蝶を預けることに致した」
「は…、ははっ!有り難き幸せにございます!」
やや声をうわずらせながら、蘭丸は素早く平身低頭した。
若干の平静を保ってはいたが、急なを突き付けられた蘭丸の心臓は激しく高鳴り、
少しでもを揺すられたら、胃の中のものが全て出てしまいそうな程に、彼の緊張は凄まじかった。
「さすがに胡蝶の部屋ではすぎる故、婚礼の儀は、総見寺にて密かに執り行うものとする。
参列は胡蝶を存ずる身内のみ。無論そなたの親類は誰も呼べぬが、そのことは元より承知しておろうのう?」
「はい──承知しておりまする」
迷いなく低頭する蘭丸に、信長は「うむ」と頷いた。
「何かと多忙であろうが、これも胡蝶の為と心得、より少しずつ準備を進めよ。良いな?」
「…はい! 心得ましてございます」
下げていた頭を蘭丸が更に低くすると、濃姫がと微笑みかけた。
「つい先ほど上様と話しうて決めたこと故、この話はまだ胡蝶も知りませぬ。蘭丸殿、
よろしければ今から胡蝶の部屋へ参って、あの子に、この決定をせに行っては下さいませぬか?」
「…かような大事を、某の口からとは…。まことによろしいのですか !?」
「ええ。その方が、胡蝶も喜びます故」
蘭丸は思わず顔を上げ、その端麗な面差しに暖かな笑みを浮かべると
「承知致しました。これよりお部屋へ参り、姫様にこの件を伝えて参りまする」
「頼みましたよ。外の入側にが控えておる故、仏間の鍵を借りると良かろう」
「はい──お心遣い、痛み入りまする」
蘭丸は今一度 頭を垂れると、喜色のむ面差しをそのままに、座を速やかに辞した。
入口の襖が隙間なく閉ざされると
「ふん…っ。儂の近習ともあろう者が、だらしなく口元を緩めおって」
信長はふて腐れたような表情になって、傍らのに体重を預けた。
「上様。有り難う存じまする」
濃姫は笑顔満面で会釈する。
濃姫が「お!」となって部屋に踏み入れようとした足を引くと、その下に鉛玉やら鏃(やじり)やらが幾つも散らばっていた。
「その辺りのは、まだ整理も手入れもしておらぬ。踏み荒らすでないぞ!」
「…は、はあ…」
姫はそれらを踏まぬよう、足元に気を配りながら入室すると
「お伺い致したき儀があり、まかりこしました」【脫髮先兆】頭髮變幼變薄?留意四大脫髮成因!
信長の傍らに腰を据え、端然と三つ指をついた。
「そなたが参ったという事は、此度の蝮殿の話か?」
「御意にございます。──会見の話、何故にお断りになられませなんだ !?」
「断る理由がいったいどこにある?」
信長は鉄砲を磨きながら、しれっとした顔で言う。
「せっかくそなたの父上が儂に会いたいと言うてくれておるのじゃ。断る方が無礼であろう」
「今は左様な礼儀などどうでも良いのです!あなた様のお命に関わる事なのですよ !?」
「はてさて、儂の命とな?」
「おとぼけにならないで下さいまし!私でも父の考えをすぐに読めたのです、殿に読めない訳がございませぬ!」
姫の言葉に、信長は如何にも余裕有り気にふっとほくそ笑む。
「父上様は此度、殿を殺める気でおりまする。会見は、尾張を奪う為のただの口実。目的はあなた様のお命なのです!」
「──」
「父上様の事、私の存在など顧みず平気でこの城にも軍勢を差し向けましょう。そうなれば、もう……」
最悪の結末しか思い浮かばない頭を、二、三度強く横に振ると
「今からでも遅うはありませぬ!父上様にお断りの使者をお遣わし下さいませ。
いえ、何でしたら私が、父上様にお諦めいただくように文を書きまする!」
濃姫は自室に立ち戻ろうと、軽く腰を浮かせた。
「余計な真似を致すなっ!」
信長は叫ぶや否や、立ち上がろうとする濃姫の腕をグイと引いた。
「そなた。儂があの蝮の親父殿に易々と殺されると、そう思うておるのか !? 儂に勝機はないと !?」
「それは…」
「とうとう儂を信用出来ぬようになったか !?」
濃姫はとんでもないと、大仰にかぶりを振った。
「無論、殿の事は信じておりまする!されど、私は心配でならぬのです。
如何に殿が優れたお方であろうとも、力と戦の経験では我が父の方が上。
もしも殿が、蝮の毒にやられる事になったら…私は…」
ぐうっと熱い思いが込み上げて来て、姫の透明感に満ちた双眼が、うっすらと涙で滲んだ。
やおら濃姫は、信長の肩に顔を伏せるようにして、相手の身にすがり付いた。
「…父と夫の殺し合いなど、濃は見とうございませぬ。後生でございますから、殿、会見はお断り下さいませっ」
「それは、まことに儂を案じての言葉か?」
「当たり前でございます!夫の身を案ぜぬ妻が、いったいどこにおりましょう」
「儂が死ぬのは嫌か?」
「嫌です…!殿には生きていてほしゅうございます!」
「生きていて、どうしろと?」
「濃のお側に居て下さりませ!ずっとずっと、濃のお側に!」
「儂がそれほどまでに愛しいか?」
「…愛しゅうございます。……あなた様のようなお方に惚れてしまった自分自身を、恨めしく思う程に」
姫の放つ一言一言に、愛情に満ちた温もりがあった。
やがて信長は、その目元に優しさを湛えると、鉄砲を畳の上に置き
「愛(うい)やつよな……そなたは、本当に」
濃姫の細い肩を、そっと、包むように抱いた。
信長の身体から、汗と、渇いた土、そしていっぱいの太陽の香りが漂ってくる。
濃姫の大好きな香りだ。
この香りも、温もりも、決して失いたくない…。
姫は何とかして会見を思い留まってほしかったが、信長の心は変わらなかった。
「お濃──儂は蝮殿に会うぞ。そなたに何と言われようとも、この意は変わらぬ」
姫は思わず、希望を打ち砕かれたような表情で夫を見つめた。
名前くらいならば縁組が決まった時点で、政秀か誰かから聞いていそうなものだが…。
彼はまるで覚えていない様子である。
「──」
「何じゃ、何を黙っておる。そちは口が利けぬのか?口なしか?」
妙に粘っこい、嫌な言い方をする信長に腹が立ったのか
「…帰蝶にございます…」【脫髮先兆】頭髮變幼變薄?留意四大脫髮成因!
「は? 何じゃ聞こえぬぞ」
「帰蝶にございますっ!」
姫はこの尾張に来て、初めて大声を響かせた。
「帰蝶?」
「…はい」
「蝮の娘が帰蝶──。随分と贅沢な名を付けてもろうたものじゃな」
信長は辛辣に言うと
「そうよのう。…蝮に…蝶…。いや、美濃か ?」
下顎を撫でながら、徐に視線を天に向け、何かを考え始めた。
「お美…お濃……。おお!濃か、なかなか良いではないか!」
信長は大きな独り言を呟くと
「本日そなたに『濃(のう)』の名をくれてやる!」
「…濃…?」
「美濃から参った姫じゃ故、濃姫。どうじゃ?覚え易うて良いであろう」
「…濃姫」
突然のことに帰蝶の目が戸惑いがちに泳いだ。
そんな姫を尻目に、信長は腰に下げていた二つの瓢箪(ひょうたん)の内の一つを手に取ると
「固めの儀じゃ!」
と一言叫んで、瓢箪の中の酒をくびくびと口飲みした。
彼はその瓢箪を帰蝶に差し出すと
「そなたも飲め」
「…え…」
「固めの儀じゃ故、そなたも飲まねば意味がないであろう。飲め」
信長は有無を言わさぬ口調で飲酒を促した。
帰蝶の顔面には、はっきりとした拒否反応が浮かんでいる。
回し飲みなど生まれてから一度もしたことがない。
第一、人が口をつけた物を、それも獣のようなこの男が飲んだ酒を飲むなど、絶対に出来ないと帰蝶は思った。
誰かに信長を止めてもらいたかったが、こんな時に限って皆々口をつぐんでいる。
「どうした?何故受け取らぬ」
「……」
「おぉ、そうか──蝮の子はやはり蝮。
姫君は蝮の如く、この瓢箪を受け取る手を持ち合わせておらぬと見ゆる」
帰蝶は睨むように信長を見上げた。
「手足があるだけ蜥蜴(とかげ)の方がまだ優秀よのう」
信長が冗談めかして告げると、ふいに下段から「ククッ」と笑い声が漏れた。
その笑い声を聞いて
『 やはり蝮の娘じゃ 』
『 美濃の間者の分際で図々しい 』
さっきの嘲りの言葉を思い出し、帰蝶の身体中がカッと熱くなった。
「お固めの儀ならば、姫様にはこちらの御杯の方をお使いいただきまして…」
と、三保野が手元に置いてあった杯を帰蝶に手渡そうとした時
「──!」
帰蝶の手が、隼(はやぶさ)のように信長から瓢箪を奪い取った。
そして先程までの躊躇いが嘘のように、平然とそれに口を付けたのである。
豪快に酒を呷る帰蝶を見て
「何と!」
「ひ、姫君様!」
政秀や三保野らは驚愕し
「はははは!面白い!さすがは儂の嫁になるおなごじゃ!」
信長は愉快そうに笑った。
瓢箪の飲み口から唇を離した帰蝶の双眼には、それは強い光が帯びていた。
もう怒りも恥ずかしさも躊躇いも、どこかへ飛んでいってしまった。
ただ、この男にだけは見下げられたくない。
決して負けたくない。
そんな思いが、帰蝶の胸の中いっぱいに広がっていた。
これが天下の風雲児・織田信長と、帰蝶…改め濃姫との、長い長い戦の始まりとなったのである──。
大騒ぎの祝宴の後。
濃姫(帰蝶)は速やかに奥御殿の居室に戻ると、薄物に着替え、御湯殿へと移動した。